「休む」というひとつの言葉のなかに、まったく違う二つの制度が入っています。

病気やこころの不調で休む休職。子どもを育てるために休む育休。日々の暮らしから見れば、どちらも「しばらく会社に行かない」ことに変わりはありません。けれど、制度の側から見ると、土台から違う。ここでは、その違いを六つの軸に絞って、条文で確かめられたことだけを並べます。

土台 — 会社の制度か、法律の権利か

まず、休職。労働基準法89条は、就業規則に書かなければならない事項を列挙していますが、そのなかに「休職」という言葉はありません。あるのは10号の、「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」という条文です。つまり、休職は会社が制度として置いて初めて存在するもの。休職できるか、何か月休めるか、期間が満了したらどうなるかは、法律ではなく自分の会社の就業規則が決めます。

いっぽうの育休は、法律の制度です。

労働者は、その養育する一歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業(中略)をすることができる。

— 育児・介護休業法 第5条第1項

事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。

— 育児・介護休業法 第6条第1項

申し出れば取れる。会社は拒めない(6条には労使協定による例外が定められていますが、原則はこの一文です)。さらに10条は、育休の申出や取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。

休職は、会社が「置いてくれている」制度。育休は、法律が「持たせてくれている」権利。ここが、あとの軸すべてに影を落とします。

制度の土台
  • 休職

    就業規則で会社が置く制度(労働基準法89条10号の「定めをする場合」)

    法律に「休職」の定義は無い。可否・期間・満了時の扱いは会社しだい

  • 育休

    法律が労働者に認める権利(育児・介護休業法5条・6条)

    会社は申出を拒めない。不利益取扱いは禁止(10条)

休職の扱いは就業規則で会社ごとに違います。育休の細かな要件(分割・延長・有期雇用の場合)は育児・介護休業法5条の各項に定めがあり、個別の当てはめは勤務先に確認してください。

「育休は休職なのか」という問い

ここまで読むと、ひとつの問いが浮かびます。育休は、休職の一種なのか。

法律の側から答えると、こうなります。育児休業は、育児・介護休業法2条1号が定義している制度です。「(子)を養育するためにする休業をいう」と、名前と中身が条文に書いてある。

いっぽうの「休職」は、労働基準法にも育児・介護休業法にも、一度も出てきません。どちらの法律の条文を通して探しても、この二文字は現れない。つまり法律の世界には「休職」という区分がそもそも無く、育休がその一種かどうかという問いは、法律の側では立たないのです。

では、どこで立つのか。会社の就業規則です。「休職」は会社が自分で作る言葉なので、社内の書類や人事のシステムで育休をどう区分しているかは、会社ごとに違います。育休を休職の一種として扱っている会社もありえます。自分の場合の答えは、就業規則の休職の条と、育児休業の条を並べて読めば分かります。

ただ、ここは押さえておいてください。社内で同じ棚に入れていても、制度の中身は別々に動きます。保険料が免除されるかどうか、お金がどの保険から出るか、翌年の有給の計算でどう数えられるか。どれも社内の呼び方では変わりません。次からの五つの軸が、その中身です。

土台の話をそれぞれの側から詳しく追うなら、休職の手続きは、どこから始まるのかと育休の始め方へ。

期間 — 上限が法律にあるか、就業規則にあるか

土台の違いは、そのまま「何か月休めるのか」の違いになります。

育休の上限は、条文に書いてあります。原則は、子が1歳に達する日まで(5条1項)。要件を満たせば1歳6か月まで延ばせて(5条3項)、さらに2歳まで延ばせます(5条4項)。どちらの延長も「次の各号のいずれにも該当する場合に限り」という条件つきですが、上限そのものは全国どこの会社でも同じです。

休職には、これがありません。労働基準法に休職の期間を定めた条文は無く、決めているのは就業規則です。だから会社によって半年のところも、三年のところもある。同じ病気で同じだけ働けなくても、勤め先が違えば休める長さが違う。これが、休職でいちばん戸惑うところです。

ここで、よくある取り違えをひとつほどいておきます。

「1年6か月」は、会社を休める期間ではない
  • 育休の上限

    法律にある(原則1歳・延長で1歳6か月・2歳)

    育児・介護休業法5条1項・3項・4項

  • 休職の上限

    就業規則にある(法律の定めは無い)

    労働基準法89条10号。会社ごとに違う

  • 傷病手当金の「通算1年6月」

    会社を休める期間ではなく、給付が出る期間

    健康保険法99条4項。会社の休職期間とは無関係に進む

会社の休職期間と健康保険の給付期間は、別々のものさしで動きます。自分の会社の上限は就業規則の休職の条で、給付の残りは保険者で確認してください。

「うつ病の休職は最長1年6か月」という説明を見かけますが、その1年6か月は健康保険から傷病手当金が支給される期間(健康保険法99条4項)のことで、会社を休める期間の話ではありません。ふたつは別々に進むので、残りは別々に数える必要があります。

期間そのものを掘るなら、休職側は診断書と休職期間、育休側は申出の期限と延長にそれぞれ条文を並べてあります。

お金 — 傷病手当金と育児休業給付金は、保険が違う

休んでいる間に受け取れるお金も、名前が違うだけではありません。根拠になる保険そのものが違います。

休職中のお金は、健康保険の傷病手当金。健康保険法99条1項は、療養のため労務に服することができないとき、その日から起算して3日を経過した日から支給すると定め、2項が額を決めています。支給開始日の属する月以前の直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の、3分の2。厚生労働省の案内によれば、支給期間は令和4年1月1日から「支給開始日から通算して1年6か月」です。申請先は、加入している健康保険の保険者(協会けんぽ、または健康保険組合)。

育休中のお金は、雇用保険の育児休業給付金。雇用保険法61条の7が定めていて、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の100分の50、ただし休業日数が通算して180日に達するまでは100分の67に相当する額です。こちらの窓口はハローワーク(公共職業安定所)で、健康保険の保険者ではありません。

どちらも「給料の何割」ではない、という点は共通しています。傷病手当金の基準は標準報酬月額、育児休業給付金の基準は休業開始時賃金日額。手取りから逆算すると、どちらもずれます。

休んでいる間のお金
  • 休職 — 傷病手当金

    健康保険(健康保険法99条)。標準報酬月額の平均÷30の3分の2、通算1年6か月

    申請先は加入している健康保険の保険者

  • 育休 — 育児休業給付金

    雇用保険(雇用保険法61条の7)。休業開始時賃金日額×支給日数×67%、通算180日到達後は50%

    窓口はハローワーク

金額の計算と支給の決定は、それぞれ保険者とハローワークが行います。要件・期限・上限など細かな条件はクラスタの記事と各窓口で確認してください。

額の計算、待期や締切、入金までにかかる時間までは、それぞれの記事で追っています。休職は傷病手当金はいくら・いつから・いつまで、育休は育児休業給付金はいくらかへ。入金と支払いの時系列だけを1枚にしたものが育休のお金は、先に出ていって後から入るです。

社会保険料 — 免除があるのは、育休だけ

ここが、いちばん見落とされる違いです。

育休中は、健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。健康保険法159条は、育児休業等をしている被保険者について、事業主が保険者等に申出をしたとき、所定の月の保険料を「徴収しない」と定めています。日本年金機構の案内でも、免除は本人と会社の両方の負担に及び、免除期間は年金額の計算では保険料を納めた期間として扱われます。

休職には、これがありません。日本年金機構が保険料の免除として挙げているのは、産前産後休業期間中・育児休業期間中・養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の三つ。病気やケガによる休職は、そこに入っていない。給与が止まって天引きの元が無くなっても、保険料の負担そのものは続きます。

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)
  • 休職

    免除されない。休んでいる間も労使折半の負担が続く

    免除の一覧に病気・ケガの休職は無い(日本年金機構)

  • 育休

    免除される(健康保険法159条・事業主の申出が要件)

    本人分も会社分も。年金額の計算では納めた期間扱い

免除の月の判定(開始月・終了月・14日要件・賞与)は日本年金機構の案内に細則があり、育休クラスタの記事で確認できます。休職中の保険料の納め方は勤務先の運用で変わります。

免除される月の判定(開始月と終了月の数え方・14日要件・賞与)は育休中の社会保険料は免除されるに、免除が無い側で実際にどう払うことになるのかは休職中も止まらない支払いに書いてあります。

住民税 — どちらも、止まらない

五つ目の軸には、違いがありません。

所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。

— 地方税法 第313条第1項

住民税は、去年の所得に対する税金です。休職でも育休でも、休んでいる年の収入が減ることと、去年の所得に対する税額が決まっていることは、別の話。給与から天引きできなくなったぶんは消えずに残り、納付書で納めるのか復職後に精算するのかは、会社と市区町村の取り扱いで変わります。

天引きが止まる根拠(地方税法321条の5第2項)と、残った分の納め方は、休職中も止まらない支払いで条文から追っています。退職する場合は退職した月で扱いが変わるので、辞める前に確認できることもあわせて。

年次有給休暇 — 「出勤したものとみなす」に入っているか

六つ目は、休んだ期間が次の年の有給休暇にどう響くかです。ここにも、はっきりした差があります。

年次有給休暇が発生する条件は、労働基準法39条1項にあります。雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したこと。2年目以降も、1年ごとに8割の要件がかかります(39条2項ただし書)。

休んでいれば出勤日は減ります。では休職や育休の期間はどう数えるのか。同じ条の後ろに、みなしの規定があります。

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び(中略)育児休業又は(中略)介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

— 労働基準法 第39条第10項

挙がっているのは4つ。業務上の傷病による療養の休業、育児休業、介護休業、産前産後休業です。

育休はここに名指しされています。休んでも、8割の計算では出勤したものとして扱われる。

いっぽう、業務外の病気やケガによる休職は、この並びに入っていません。ここでも「業務上か、業務外か」の線が効いてきます。仕事が原因なら労災の領域で、この10項のみなしも受けられる。そうでなければ、条文上のみなしは無い。

年次有給休暇の8割要件と「出勤したものとみなす」休み
  • 育児休業をした期間

    労働基準法39条10項に名指しされています

  • 介護休業・産前産後休業をした期間

    同じく10項に挙がっています

  • 業務上の負傷・疾病の療養で休業した期間

    労災の領域。10項の先頭に挙がっています

  • 業務外の病気やケガによる休職の期間

    10項の並びには入っていません

ただし、出勤率をどう計算するか(休職した期間を全労働日そのものに含めるかどうか)は、この条文だけでは決まりません。行政の解釈や就業規則の定めが関わる部分なので、自分の場合の扱いは勤務先の担当窓口で確かめてください。

断っておくと、これは「休職すると有給が消える」という話ではありません。条文が言っているのは、みなしの対象に挙がっているかどうかだけ。実際の出勤率の計算や、もともと持っている有給がどう扱われるかは、勤務先の規則と運用によります。休職を申し出るときに、そのまま聞いておく価値がある一項目、というのがここでの持ち帰りです。

休職の期間を会社と相談するときに何を一緒に確かめるかは、診断書と休職期間の末尾にまとめてあります。

六つの軸を、一枚に

軸休職育休
制度の土台会社の就業規則(労働基準法89条10号の「定めをする場合」)法律の権利(育児・介護休業法5条・6条・10条)
休める期間の上限就業規則しだい(法律の定めは無い)原則1歳・延長で1歳6か月・2歳(5条1項・3項・4項)
会社は拒めるか就業規則しだい拒めない(6条1項・労使協定の例外あり)
休んでいる間のお金傷病手当金(健康保険法99条)育児休業給付金(雇用保険法61条の7)
その窓口加入している健康保険の保険者ハローワーク
社会保険料免除されない免除される(健康保険法159条)
住民税止まらない(地方税法313条)止まらない(地方税法313条)
有給の8割要件業務外の休職は「出勤したものとみなす」に入っていない出勤したものとみなす(労働基準法39条10項)

土台が違えば、休める長さも、お金の出どころも、保険料の扱いも、翌年の有給の計算も変わる。住民税だけが、どちらにも同じ顔で残る。この一枚を持っていれば、自分がいまどちらの制度の上に立っているか、そして次に何を確かめればいいかが見えてきます。

それぞれの道へ

休職のことなら、休職の手続きは、どこから始まるのかから。会社の制度と法律のお金を分けるところから始まり、傷病手当金、止まらない社会保険料と住民税へ続きます。

育休のことなら、育休の始め方から。会社が申出を拒めないところから始まり、育児休業給付金、免除される保険料と止まらない住民税へ続きます。育休の手前にある産休については、そこでお金の出どころが健康保険から雇用保険へ入れ替わることを産休と育休は、お金の出どころが違うに書きました。

二つが重なる場面——育休の途中で体調を崩したとき、休職中に子どもが生まれたとき——は、この一枚では答えが出ません。どの制度に当たるかは事実で決まり、判定するのは勤務先・保険者・ハローワークです。自分の状況を持って、窓口へ。