休んでいるあいだに、辞めることを考える日があります。
この記事は、それをすすめるものではありません。辞めるか続けるかは、体の状態も、家の事情も、職場の事情も込みの話で、外から決められることではない。
ただ、ひとつだけ厄介なことがあります。退職には、退職とは別に、期限のある手続きが付いてくる。しかもその期限は、決めかねているあいだにも進みます。いちばん短いものは20日です。
だから、判断の材料として先に並べておきます。知らずに期限を逃すと、選べたはずの道が消える。それだけは避けられます。
1. 健康保険 — 20日以内(任意継続)
会社を辞めると、会社の健康保険の資格を失います。そのあとの選択肢のひとつが、同じ保険者の健康保険に自分で入り直す任意継続です。
期限が、はっきり条文にあります。
第三条第四項の申出は、被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない。ただし、保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる。
— 健康保険法 第37条第1項
20日。退職の手続きや引き継ぎに追われている時期に、これが走り出します。協会けんぽも、資格喪失日(退職日の翌日など)から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出することと案内しています。
入れる人の条件は健康保険法3条4項にあって、資格喪失の日の前日まで継続して2月以上被保険者であったこと。協会けんぽは「1日も間を空けることなく、2か月以上」と言い換えています。
入ったあとの注意も2つ、条文に書いてあります。初めて納付すべき保険料を納付期日までに納めなかったときは、任意継続被保険者とならなかったものとみなされる(37条2項)。そして続けられるのは2年まで(38条1号)。保険料を期日までに納めなかった場合も資格を失います(38条3号)。
1任意継続を選ぶとき
- 資格喪失の日の前日まで継続して2月以上、被保険者であったこと(健康保険法3条4項)
- 資格を喪失した日から20日以内に、保険者へ申し出ること(37条1項。正当な理由があると保険者が認めれば経過後の受理もある)
- 初めて納付すべき保険料を、納付期日までに納めること(37条2項)
満たすと: 同じ保険者の被保険者を、最長2年まで続けられる(38条1号)
国民健康保険に入る、家族の被扶養者になるなど、ほかの選択肢との保険料の比較は、加入している保険者と市区町村の窓口で。どちらが有利かは収入と家族構成で変わるため、ここでは比較しません。
保険料は、在職中の倍になりうる
期限より先に知っておきたいのが、金額です。ここに、見落とされやすい仕組みがあります。
在職中、健康保険料は会社と自分で半分ずつ負担していました(健康保険法161条)。任意継続に切り替えると、その半分が消えます。協会けんぽも「在職中は事業所とご本人で保険料を半分ずつ負担することとなっていましたが、退職後(資格喪失後)はご本人が全額負担することとなります」と案内しています。給与明細で見ていた額と、これから払う額は、同じではありません。
ただし、青天井ではありません。基準になる標準報酬月額に、上限の仕掛けがあります。
任意継続被保険者の標準報酬月額については、(中略)次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額をもって、その者の標準報酬月額とする。
一 当該任意継続被保険者が被保険者の資格を喪失したときの標準報酬月額
二 前年(一月から三月までの標準報酬月額については、前々年)の九月三十日における(中略)全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額(中略)
— 健康保険法 第47条第1項
退職時の自分の標準報酬月額と、全被保険者の平均。低いほうが採用されるので、給与が高かった人ほど平均のほうで頭打ちになります。協会けんぽはこの平均額を金額で示していますが、見直される額なので、申請する時点の値をページで確かめてください(傷病手当金の記事で出てくる「12か月に満たないとき」の額と、同じ性質の数字です)。
協会けんぽはあわせて、保険料は加入した月から必要で月単位(日割りはない)、原則2年間は変わらない(都道府県の料率の変更などを除く)とも案内しています。
国民健康保険に入る道、家族の被扶養者になる道もあります。どちらが安いかは、収入と家族構成で変わるので、ここでは比べません。やることは決まっています——任意継続の額は加入している保険者に、国民健康保険の額は市区町村に聞いて、両方の数字を並べてから決める。20日という期限は、その二つを聞くには十分な長さです。
2. 傷病手当金 — 「1年以上」と「受けている最中か」
休職中に退職する場合、いちばん気になるのはここでしょう。傷病手当金は、退職すると止まるのか。
条文は、条件つきで続くと書いています。
被保険者の資格を喪失した日(中略)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
— 健康保険法 第104条
分かれ目は2つです。1年以上の被保険者期間があるか。そして資格を喪失した際に、実際に支給を受けている最中かどうか。
1年を数えるのは在職中の被保険者期間で、括弧書きのとおり任意継続や共済組合の期間は除かれます。つまり、任意継続に入れば継続給付の条件を作れる、という話ではありません。前の記事で見た支給期間(通算1年6月)の範囲内で、受けられるはずだった期間を引き継ぐ形になります。
ここで、退職日の過ごし方が効いてきます。協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないため、資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金は支払えない、と案内しています。最後の日に出社すれば、その日は労務に服したことになり、「支給を受けている最中」ではなくなるからです。
支給を決めるのは保険者です。自分の被保険者期間が1年に届いているか、いま支給を受けている状態と見てもらえるか、退職日に会社へ行く予定が出勤として記録されるのか。どれも、退職日を決める前に保険者と勤務先へ。くわしくは復職と退職の分かれ道にも書いています。
3. 雇用保険 — 受給期間は1年、ただし延長できる
働ける状態で辞めて仕事を探すなら、雇用保険の基本手当の話になります。ここにも期間があります。
基本手当は、(中略)当該基本手当の受給資格に係る離職の日(中略)の翌日から起算して一年(中略)内の失業している日について(中略)支給する。
— 雇用保険法 第20条第1項
離職の日の翌日から1年。この枠のなかで使わなかった分は、残っていても受け取れません。
見落とされやすいのは、同じ項に入っている延長のしくみです。妊娠、出産、育児その他厚生労働省令で定める理由により引き続き30日以上職業に就くことができないとき、公共職業安定所長にその旨を申し出れば、その日数が1年に加算されます。加算された期間が4年を超えるときは4年が上限です。
すぐには働けない状態で辞める場合、この申出をしておくかどうかで、あとで使える枠が変わります。申出の手続きと、自分の理由が省令に当たるかは、ハローワークで確認してください。
4. 住民税 — 退職した月で、扱いが変わる
最後は住民税。休職中も育休中も止まらなかったあの支払いは、退職でも消えません。変わるのは引かれ方です。
原則は、地方税法321条の5第2項の本文にあります。給与の支払を受けないこととなった場合、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額について、会社が徴収して納入する義務は無くなる。だから残りは自分で納めることになります。
ところが、同じ項のただし書に、時期による分かれ目が書かれています。
6月1日から12月31日に退職したとき
原則は残りを自分で納める。本人が申し出れば、翌月以降の月割額を特別徴収(天引き)で続けることもできる
申出があった場合の扱いとして条文に書かれている
翌年1月1日から4月30日に退職したとき
5月31日までに支払われるべき給与または退職手当等が月割額の全額を超えるときに限り、会社が全額を徴収しなければならない
いわゆる一括徴収。最後の給与から大きく引かれることがある
年度は6月から翌年5月までで動きます。実際の金額と納め方は、勤務先と市区町村の取り扱いで変わるので、最後の給与の前に確認してください。
年明けに辞めると、最後の給与から年度末までの住民税がまとめて引かれることがある。これが、手取りの見込みを狂わせる一番の原因です。金額は、毎年6月ごろに届く住民税の決定通知書に載っている月割額から見当がつきます。
期限を、一枚に
| 手続き | 期限・枠 | 確認先 |
|---|---|---|
| 健康保険の任意継続 | 資格喪失日から20日以内(健保法37条1項) | 加入している健康保険の保険者 |
| 傷病手当金の継続給付 | 被保険者期間1年以上+喪失の際に受給中(健保法104条) | 同じ保険者 |
| 雇用保険の基本手当 | 離職日の翌日から1年(雇保法20条1項)。30日以上働けないときは延長の申出 | ハローワーク |
| 住民税 | 退職の月で扱いが変わる(地方税法321条の5第2項) | 勤務先と市区町村 |
4つのうち3つは、辞めると決める前に窓口で聞けることです。自分の被保険者期間は何年何か月か。いま受けている給付は継続の対象になるか。延長の申出はできるか。最後の給与からいくら引かれるか。
聞いてから決めても、遅くはありません。むしろ順番としては、そちらが先です。
それぞれの道へ
休職から先を考えているなら、復職と退職の分かれ道で、続ける場合と辞める場合の制度の違いを扱っています。休職中のお金そのものは傷病手当金へ。
育休から先を考えているなら、育休の終わり方に復職側の手続きと時短の給付をまとめています。休職と育休で制度の土台がどう違うかは、もう一枚の横断ガイドへ。
どの制度に当たるか、条件を満たすか。判定するのは、それぞれの実施機関です。この記事が持てるのは、期限の地図までです。