育休は、原則として予定日に終わります(育児・介護休業法9条1項)。
終わり方は、大きくふたつ。復職するか、しないか。この記事は復職する場合の手続きと、そのあとに待っている変化の話です。
復職のとき、保険料の届出がひとつ残っている
育休中に免除されていた社会保険料は、休業が終われば再開します。ここで知っておきたい届出があります。
日本年金機構の手続き一覧には、育休まわりとして次の3つが並んでいます。
- 1
育児休業等を取得・延長したときの手続き
免除を始めるための届出。休みに入るときに事業主が出します。
- 2
育児休業等が終了したときの手続き
予定より早く終わった場合などの届出です。
- 3
育児休業等終了時報酬月額変更届
復職後に時短勤務などで給与が下がった場合、保険料の基準(標準報酬月額)を実態に合わせて改定するための届出です。
実務でいちばん効くのは3つ目です。社会保険料は標準報酬月額を基準に決まるので、放っておくと、時短で給与が下がったのに、育休前の高い基準のまま保険料を払い続けることが起こりえます。終了時の月額変更届は、それを実態に合わせるための仕組みです。
3つとも、出すのは事業主です。自分で年金事務所に行く必要はありません。ただ、時短で戻るつもりなら「終了時の月額変更届は出してもらえますか」とひとこと。それだけで、復職後の手取りの見当がつきます。
保険料が下がると、将来の年金も下がる — それを止める申出
ここで、ひとつ引っかかることがあります。
標準報酬月額は、保険料を決めるものさしであると同時に、将来の年金額を決めるものさしでもあります。終了時の月額変更届で基準が下がれば、毎月の保険料は軽くなる。けれど同じ理屈で、その期間の年金の計算も低い基準で行われることになります。時短で働いた数年分が、そのまま将来に効いてくる。
この一点だけを打ち消す仕組みが、厚生年金保険法26条に置かれています。
三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、(中略)実施機関に申出(中略)をしたときは、(中略)その標準報酬月額が(中略)従前標準報酬月額(中略)を下回る月(中略)については、従前標準報酬月額を(中略)平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。
— 厚生年金保険法 第26条第1項
効くのは年金額の計算だけです。保険料は下がったまま。つまり、払う額は軽いのに、年金は下がる前の水準で数えてもらえる。日本年金機構も「養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう」と説明しています。
ただし、黙っていて適用されるものではありません。3つ、気をつける点があります。
1申出をすれば
- 対象は3歳未満の子の養育開始月から、子の3歳の誕生日がある月の前月まで
- 基準になるのは養育開始月の前月の標準報酬月額(その月に被保険者でなければ、その月の前1年以内の直近の被保険者であった月)
- 申出は事業主を経由して行う。さかのぼれるのは申出日の前月までの2年間
満たすと: 標準報酬月額が下回る月について、従前の(高いほうの)額で年金額が計算される
健康保険ではなく厚生年金の仕組みです。傷病手当金など健康保険の給付の額は、下がった標準報酬月額で計算されます。書類は「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」。退職した人は本人から直接提出できると案内されています。
いちばん危ないのは3つ目の2年です。復職して数年たってから気づいても、戻せるのは2年分まで。月額変更届の話をするときに、同じ場で「養育期間の特例申出書もお願いできますか」と並べて頼むのが確実です。
なお、養育開始月の前月の前1年以内に厚生年金の被保険者期間がまったく無い場合は、みなし措置は受けられないと案内されています。
時短で働くなら — 育児時短就業給付金
復職後に労働時間を短くして働く場合の給付が、2025年4月から雇用保険に置かれています。
育児時短就業給付金は、被保険者が、(中略)その二歳に満たない子を養育するための所定労働時間を短縮することによる就業(中略)をした場合において(中略)支給する。
— 雇用保険法 第61条の12
対象は、2歳に満たない子を育てるための時短就業。率は10%です。6項が、支給対象月に支払われた賃金の額に乗じる率を定めていて、賃金が時短前の水準(育児時短就業開始時賃金日額に30を乗じた額)の90%未満であれば100分の10。90%以上100%未満のところは、90%を超える度合いに応じて10%から少しずつ下がる率が、厚生労働省令で定められます。
つまり、下がった分を埋める給付ではなく、時短で働いて受け取った賃金に上乗せする形です。休んでいる間の育児休業給付金(67%・181日目から50%)とは、基準にするものが違います。
受けられる人の枠も1項にあります。時短就業を開始した日前の2年間にみなし被保険者期間が通算12か月以上あること。あるいは、その子について育児休業給付金か出生時育児休業給付金を受けていて、その休業のあと引き続き時短就業に入ったこと。どちらかに当てはまれば、支給対象月ごとに支給されます。
ただし歯止めもあって、2項により、その月の賃金が支給限度額以上であれば、その月は支給されません。限度額は厚生労働大臣が定めるもので毎年動くため、金額はここには書きません。持ち帰る行動はひとつ——時短で戻る予定なら、復職前にハローワークで「育児時短就業給付金の対象になりますか」と聞く。それだけです。
時短などで給与が下がる
育児休業等終了時報酬月額変更届(会社に確認)
保険料の基準を実態に合わせる
3歳未満の子を養育していて標準報酬月額が下がる
養育期間標準報酬月額特例申出書(会社経由)
年金額だけ従前の額で計算される。さかのぼりは2年
2歳未満の子を養育して時短就業する
育児時短就業給付金(ハローワークに確認)
雇用保険法61条の12
住民税の残額がある
納め方の続きを会社・市区町村に確認
天引き再開のタイミングも
どれも「知らないと損に気づけない」型の項目です。復職の1か月前を目安に確かめておくと、落ち着いて戻れます。
復職しない道を選ぶなら
復職せず退職する選択もあります。そのときのお金と手続き——雇用保険、健康保険の切り替え、住民税の精算、転職先の給与サイクル——は状況によってまるで変わるので、ここで一般論は並べません。ただし、期限のあるものだけは先に知っておく価値があるので、辞める前に確認できることに条文で確かめた4つを並べてあります。
ひとつだけ、実体験から言えることを。復職直後や転職直後の書類の量は、想像を超えます。育休関係の締めの手続き、新しい環境の手続き、子どもの預け先の手続き。全部が同じ時期に重なるからです。動く予定があるなら、書類のための時間を先にカレンダーに確保しておく。それだけで負担がだいぶ違います。くわしくは体験談へ。