傷病手当金の説明は、たいてい「給料のおよそ3分の2がもらえる制度」とまとめられています。
でも、条文はそう書いていません。基準になるのは給料ではなく、標準報酬月額。支給が始まる日にも、終わる日にも、それぞれ別のルールがあります。ここでは、条文と協会けんぽの案内で確かめられたことだけを置いていきます。
いくら支給されるのか
金額の決め方は健康保険法99条2項にあります。かみくだくと、こうなります。
支給開始日の属する月以前、直近の続いた12か月間の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 の、3分の2。これが1日あたりの額です。
「標準報酬月額」は、健康保険料を計算するために決められている等級のこと。毎月の給与そのものではありません。ここが、「給料の3分の2」という言い回しと実際の金額がずれる理由です。
- 1
直近12か月の標準報酬月額を平均する
支給開始日の属する月以前の、継続した12か月分。
- 2
30で割る
1日あたりの基準額が出ます。
- 3
3分の2をかける
これが傷病手当金の1日あたりの額です。
端数処理の方法も健康保険法99条2項に定められています。正確な金額を計算するのは、加入している健康保険の保険者です。
傷病手当金の概算を出す
給与明細や保険証の記載、健康保険の保険者のマイページなどで確認できます。手取りでも額面でもなく、保険料を決めるための等級の額です。
待期3日間は支給されません。1か月分の目安を見るなら30日のままで。
健康保険法99条2項の計算式で出した概算です。実際の金額は、加入している健康保険の保険者が標準報酬月額をもとに決定します。入力した数字がどこかに送信されることはありません(この画面の中だけで計算しています)。
加入して12か月経っていないとき
転職や入社からまもない場合、平均を取る12か月分がありません。そのときは、次のふたつのうち低いほうで計算します(健康保険法99条2項ただし書)。
- 支給開始日の属する月以前の、継続した各月の標準報酬月額を平均した額
- 支給開始日の属する年度の前年度9月30日における、全被保険者の標準報酬月額を平均した額
後者について協会けんぽは、支給開始日が令和7年3月31日以前なら30万円、令和7年4月1日以降なら32万円という額を示しています。この額は見直されるので、申請する時点の値を協会けんぽのページで確かめてください。
いつから支給されるのか
条文の言い方は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」(健康保険法99条1項)。最初の3日間は出ません。これを待期と呼びます。
数え方でつまずきやすい点がふたつあります。
3日連続で休んだ
4日目から支給の対象になります
休んだ3日のうちに土日・祝日が入っていた
公休日も待期に含まれると案内されています
休んだ3日のうちに有給休暇を使った日があった
給与の支払いの有無は待期の成立に関係しません
2日休んで、3日目に出勤し、その後また休んだ
連続していないため待期は成立しません
有給や土日祝も待期に数えてよいこと。そして、2日休んで3日目に出てしまうと待期が成立しないこと。どちらも協会けんぽが明記しています。
いつまで支給されるのか
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。
— 健康保険法 第99条第4項
鍵は「通算して」の四文字です。休職と復職をくり返した場合、支給されなかった期間は数に入りません。実際に支給された日を積み上げていって、1年6月ぶんに届くまで受けられます。
この「通算して」は、もとからあった言葉ではありません。厚生労働省の案内によれば、令和3年法律第66号による健康保険法の改正で、令和4年(2022年)1月1日から支給期間が通算化されました。裏を返せば、それより前は通算方式ではなかったということです。古い解説書やサイトに「支給開始から1年6か月で打ち切り」とだけ書いてあるものは、この改正前の説明である可能性があります。
なお、通算化の対象は、令和3年12月31日の時点で支給開始日から1年6か月を経過していない傷病手当金(令和2年7月2日以降に支給が始まったもの)と案内されています。それより前に支給が始まっていた場合の扱いは、加入している保険者に確認してください。
給与が出ている期間はどうなるか
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないときは(中略)その差額を支給する。
— 健康保険法 第108条第1項
報酬が出ているあいだは原則として支給されず、その報酬が傷病手当金より少ないときにだけ差額が出る。会社によっては休職中に一定割合の給与を払う制度がありますが、その場合の調整もこの条文の考え方で動きます。
申請と期限
申請書は協会けんぽの様式です。加入している支部へ郵送するか、電子申請で出します。協会けんぽは、賃金台帳や出勤簿の写しといった不要な書類を添付しないようにと注意を促しています。マイナンバーを書く場合は本人確認書類が要ります。
期限は法律にあります。
保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。
— 健康保険法 第193条第1項
いつ出して、いつ入るのか
金額の計算式より、暮らしに効くのはこちらかもしれません。休んでいる最中にいちばん知りたいのは、次にお金が入るのはいつかだからです。
協会けんぽは、申請の単位についてこう案内しています。
傷病手当金の申請は、給与の支払い有無について事業主の証明が必要になりますので、1か月単位で給与の締切日ごとに申請されることをお勧めします。
— 全国健康保険協会 よくあるご質問
まとめて出すこともできますが、勧められているのは月ごと。理由も書いてあるとおりで、1回ごとに会社の証明がいるからです。つまり、自分が書いて出して終わり、ではない。会社の手元で止まれば、その分だけ入金は遅れます。
そして、受け取るまでの目安。
審査の結果お支払い可能であれば、受付から10営業日以内にお支払いいたします。
— 全国健康保険協会 よくあるご質問
起点は「受付」です。自分が書き上げた日でも、会社に渡した日でもありません。1か月分を締めて、会社が証明して、保険者に届いて、そこから審査。この連なりを足していくと、最初の入金までに月をまたぐのがふつうだと分かります。
- 1
1か月分を締める
給与の締切日ごとが勧められています。待期3日が明けてから最初の1か月が、最初の申請対象です。
- 2
会社が証明する
給与の支払いの有無について事業主の証明が必要。ここが他人の手に渡る唯一の工程です。
- 3
保険者が受け付ける
10営業日の起点はここ。郵送なら届くまでの日数も足されます。
- 4
審査のうえ支払い
支払い可能であれば受付から10営業日以内、と案内されています。
所要日数は保険者と会社の事情で変わります。健康保険組合に加入している場合は、その組合の案内で確かめてください。ここに挙げたのは協会けんぽの案内です。
だから、待期が明けた日から数えて、最初の入金までにどれくらい空くのかを先に見積もっておく。そのあいだも社会保険料と住民税は止まりません。出ていくお金と入ってくるお金の時間差が、休みはじめの生活をいちばん圧迫する部分です。
退職したあとは
退職すれば被保険者ではなくなります。それでも協会けんぽは、資格喪失日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間があり、資格喪失時に傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしている場合について、退職後も受けられる取り扱いを案内しています。
当てはまるかどうかの判定は、個別の事情で変わります。最後は、加入している健康保険の保険者に直接聞いてください。この記事はそのとき、何を聞けばよいかの見取り図として使えます。